column

暮らしのコツ

パリの「夜のひかり」

照明で雰囲気をつくる

 緯度が高いパリでは夏時間も手伝って、夏(夏至の前後1カ月、6〜7月)は午後10時過ぎまで明るいです(反対に冬は早く暗くなり、12月の日没は午後5時頃)。優しい光を好むので、部屋の中が本当に暗くなるまで電灯を点けず、自然光だけで過ごす人がたくさんいます。フランスの旧建築の室内は比較的暗いのですが、屋根裏部屋やその下の階では窓を広く改造してアトリエとして使っている所をしばしば見かけます。こうすると、かなり暗くなるまで自然光で仕事ができるわけです。
 日本から来たツーリストはパリの照明が暗いのに驚きます。一般的にヨーロッパの人々は明るい光を眩しがって嫌います。これは目の色に関係していて、特に北ヨーロッパの、明るい色の瞳を持つ人に顕著。瞳が黒い人はサングラスを掛けているのと同じようなのです。フランス人の目は茶色やグレーが多いのですが、日本人に比べれば瞳の色が薄いのです。もちろん、習慣の問題もあると思いますが。そういうわけで、住まいでも明るさを押さえた雰囲気のある照明を好みます。アパートを買っても借りても、照明用具が備え付けられているところは少ないので、自分で用意して、照明に趣向を凝らします。リビングなどでは、天井や壁にバウンスさせた間接照明やスタンドをいくつも置いた光空間で装飾的効果を作ります。これらの照明をすべて使うのでなく、状況に応じて必要なものを点灯させます。日本によくあるような部屋の天井の真ん中に大きな照明を設置する方法はほとんど見られません。このほか玄関先、台所、浴室と部屋ごとに雰囲気ある照明を楽しみます。寝室ではスタンドが使われることが多いです。
 あかりの色にもこだわりがあり、フランス人は白熱電灯のような黄色っぽい光色が好きです。蛍光灯は昔から病院で使われていて、それを連想するのでイメージがあまりよくないとフランス人の友人は言っていました。EUでは電力節減、CO2排出削減のため、各国で家庭用白熱電灯の製造販売が禁止される方向に向かっており、蛍光灯を改良したエコランプ、新型エコハロゲンランプ、LEDランプなどに急速に代わってきています。フランスは節電に真剣です。CO2問題が起こるずっと前から、節電対策が取られてきました。建物の入口や階段など公共部分は自動的に切れるスイッチになっていて、点灯から一定時間(普通2〜3分くらい)が経つと自動的に切れるのでまた点けないといけません。カフェのトイレの電気がこの自動消灯装置で消えてしまって、どこで点けたらいいかわからず困ってしまったこともあります。

1.改造で窓を広げてアトリエにされた屋根裏部屋。 2.複数の光源で装飾したリビング。あかりのムードも重視される。 3.家族の写真とスタンドが共に置かれたリビングの一角。

パリ市民のナイトライフ

 ラテン系であるフランス人の夕食時間はだいたい午後8時頃。それまでに子供たちはスポーツや音楽のクラブに通ったり、家で宿題に追われる場合も多いです。フランスの会社は5時から6時に終わります。残業はせず、家庭のある人はたいていすぐ家に帰ります。日本のように同僚と飲みに行くということはほとんどありません。一人暮らしならカフェで一杯やってから帰る人もいますが、友達と一緒が一般的です。
 フランス人は日本人ほどテレビを見ないのですが、それでも夜の主要な娯楽になっています*。特に最近はビデオゲームにのめり込む子供たちが多く、これを統制しきれない親たちがたくさんいて、大きな問題になってきています。フランスでは親と子は独立していて、子供がいる家庭でも少し大きくなると、親だけで夜、映画や音楽を楽しみに出掛けます。また、ヨーロッパの他の国と同じように、フランス人は頻繁に家に招待し合って週末の夜を楽しみます。特にパリに住む同士だと移動も簡単です。若い人たちの間でも外食は高くつくので友達の家に集まって楽しむことが広まっています。
 床に就く時間は15才くらいの子供なら午後10時から10時半。もっと小さい子は普通なら、さらに早く寝かされるのですが、家庭によってさまざまで、遅くまで放っておかれる家もあるようです。大人なら11時から12時半といったところです。

* フランス人の大人の56%は眠る前のテレビ鑑賞はむしろ眠りの助けになると思っていて、実際に大人の3/4が寝る前にテレビを鑑賞している。また、35%のフランス人は寝る前にインターネットをしている。(フランス国立健康予防教育研究所、2008年資料による)
4.パリらしい燭台型の街灯。 5.ルーブル宮殿中庭の街灯。 6.トローヌ大通りのカフェ。お店も白熱電灯のような温かな色味の光源が多い。 7.照明に趣向を凝らしたピクピュス大通りのカフェ店内。

パリの街灯 今と昔

パリには89,500の街灯がある。街灯はパリ市の所有物で、パリ市交通局が管理、フランス電力公社により日没時点に設定された時計で点灯される(一部の街灯はセンサーで点灯。天候で特に暗い時にはその前に手動で点灯)。14世紀初め、暗闇の中で多発する殺人などの凶悪な事件を防ぐためにシャトレ地区の裁判所入口にロウソクの街灯を一晩中照したことが最初とされる。本格的な街灯照明は1667年、太陽王と呼ばれたルイ14世が警視総監レイニに実行させて始まり、912もの

通りに2736本のロウソクが点された。その100年後の1766年には、銀メッキの反射板を使ったオイルランプとなる。これは主要な道に沿って張られたケーブルから吊り下げられた。1829年よりガス灯が登場。1889年のパリ万博を機会にパリの主要な大通りにはアーク灯が使われ、さらには白熱電球の実用化に伴って電灯が主要な街灯照明となっていく。1914年頃からガス灯は消えていくが、ガス灯用の灯柱はいまもなお使われている。(パリ市広報公式サイトによる)

DATA
フランス共和国 République française

人口

約6600万人(2014年1月)

面積

約63.3万㎢

首都

パリ

宗教

法律上は無宗教国家。調査方法でかなり変わってくるが、約60%がキリスト教(ほとんどがカトリックでプロテスタントは約2%)、約30%が無宗教、約7%がイスラム教、約1%がユダヤ教

言語

フランス語

時間帯

UTC + 1(サマータイム+2)

フランスの国名はフランク族に由来し、パリは古代ケルト人の一種族パリジイ族がこの地に住んでいたことが語源とされる。パリ市の人口は約224万人(2011年)、面積は約105.40㎢、20の行政区で分けられる。古くから、左岸(セーヌ川の南側)は芸術・学術、右岸(セーヌ川の北側)は経済の中心として繁栄。2014年3月の選挙で社会党のアンヌ・イダルゴ氏が市長に就任した。

プロフィール

さとう・じゅん ● 東京生まれ。パリ在住30年。東京大学教育心理学科卒業。ソニーを経て渡仏。パリ大学で映画学・映像人類学を学び博士号取得。写真家。アサヒカメラにヨーロッパの写真動向を紹介していた。実験的写真アートを追求する一方、かつては好きなジャズミュージシャンの写真を、現在は魅せられたロマネスク美術の写真も撮影している。2014年からフランスの現代アートグループ、レアリテ・ヌーヴェルの写真担当になり、アブストラクト・フォトグラフィーの普及に努める。

Latest Column