今年の7月1日時点の地価である基準地価が発表されました。1月1日時点の公示地価でも一部の都市部で上昇傾向が見られましたが、今回の基準地価ではその傾向がさらに鮮明になりました。今年の7月頃は、アベノミクスによる景気回復の正念場とも言われていた頃です。公示地価では、まだアベノミクスの影響を受けていない時期でしたが、再開発の進んだ大阪など一部の都市で地価は大きく上昇しました。それから半年後、地価はどのように推移したのかを見ていきたいと思います。
国土交通省が発表した、平成25年7月1日時点の基準地価は三大都市圏(全用途)で0.1%上昇しました。これは、リーマン・ショック以来、5年ぶりの上昇です。
基準地価は、公示地価、路線価とならび発表される地価の指標の一つです。公示地価が毎年1月1日時点の土地価格を国土交通省が調査したものに対し、基準地価は毎年7月1日時点の土地価格を都道府県が調査したものになります。
今年初めの公示地価でも都市圏に限っては上昇に転じた地点が増え、全体では下落したものの地価底入れの兆しが見えていました。公示地価は1月1日時点ですので、まだアベノミクスの影響は反映されていません。基準地価はそれから半年、景気回復期待は徐々に膨らみ、不動産市場へ資金が流入し、分譲マンション契約率増加、オフィス空室率低下、といった状況での調査です。
上昇をけん引したのは、商業地で三大都市圏の全てで上昇しています。また、今回の特徴は、地価上昇の傾向が住宅地にも広がったことです。三大都市圏で昨年は0.9%の下落でしたが、0.8ポイント改善し、0.1%下落と、ほぼ横ばいの結果となりました。特に名古屋では0.7%の上昇となっています。
■基準地価の変動率 (単位:%、カッコ内は前年)
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住宅地 |
商業地 |
全用途 |
三大都市圏 |
▲0.1(▲0.9) |
0.6(▲0.8) |
0.1(▲1.0) |
東京圏 |
▲0.1(▲1.0) |
0.6(▲0.9) |
0.1(▲1.0) |
大阪圏 |
▲0.4(▲1.0) |
0.4(▲1.0) |
▲0.3(▲1.1) |
名古屋圏 |
0.7(▲0.2) |
0.7(▲0.5) |
0.7(▲0.3) |
地方圏 |
▲2.5(▲3.2) |
▲3.1(▲4.1) |
▲2.6(▲3.4) |
全国 |
▲1.8(▲2.5) |
▲2.1(▲3.1) |
▲1.9(▲2.7) |
東京圏は、上昇地点の割合が大幅に上昇し、地価は上昇局面に入ったとも見てとれます。
特に東京都では区部都心部、区部南西部、区部北東部、そして多摩地域のそれぞれのエリア平均で住宅地、商業地ともに上昇しました。
神奈川県では、横浜市、川崎市が住宅地、商業地ともに上昇しています。
埼玉県、千葉県、茨城県では、さいたま市の住宅地、商業地で上昇、その他は下落率は改善しているものの、まだ下落が続いています。
住宅地の上昇率トップは木更津市が11.6%上昇。東京アクアラインの高速バスを使えば東京まで40分で、バスの本数も年々増え、昨年大規模な商業施設ができたことも要因とされています。
東京では北品川。大崎駅に近く、職住近接型の大規模開発が1990年代から今もなお続いています。
その他、スカイツリー効果の影響のある浅草駅周辺、大学キャンパスの開設が相次いだ中野駅周辺での上昇が顕著でした。
神奈川では、地下鉄の乗り入れで集客力が高まった中華街が12.0%、再開発が続き、駅と直結したショッピングセンターが開業した武蔵小杉が13.4%と大きく上昇しました。
■東京圏(東京都・神奈川県)の地域別変動率 (単位:%、カッコ内は前年)
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住宅地 |
商業地 |
東京都 |
0.5(▲0.5) |
0.8(▲0.7) |
東京都区部 |
0.5(▲0.5) |
0.8(▲0.8) |
区部都心部 |
1.4(▲0.5) |
1.2(▲1.2) |
区部南西部 |
0.5(▲0.4) |
0.6(▲0.6) |
区部北東部 |
0.2(▲0.5) |
0.5(▲0.2) |
多摩地域 |
0.5(▲0.6) |
0.5(▲0.6) |
神奈川県 |
0.1(▲0.6) |
1.0(▲0.4) |
横浜市 |
1.1(▲0.4) |
1.8(▲0.1) |
川崎市 |
1.4(0.5) |
2.9(0.7) |
相模原市 |
0.1(▲0.7) |
▲0.2(▲0.9) |
その他 |
▲0.9(▲1.2) |
▲0.7(▲1.4) |
■住宅地変動率上位ー東京圏(単位:%)
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■商業地変動率上位ー東京圏(単位:%)
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景気回復のバロメーターとも言われる名古屋圏ですが、三大都市圏の中では唯一、住宅地が0.7%のプラスに転じました。住宅地、商業地ともに平均値で言えば、東京圏、大阪圏よりも上昇傾向が大きく見られます。
大きな要因の一つはトヨタの業績が顕著なことです。自動車関連産業が集まる西三河地域を中心に住宅地で261地点が上昇(前年86地点)、商業地域も117地点が上昇(前年28地点)と、大幅に上昇地点が増えています。
また、名古屋駅周辺では大規模開発が続いていて、その周辺の桜通沿い、栄駅、金山駅にまで影響が及び、商業地域は5%台の上昇となっています。オフィスの空室率も低水準で推移し、西三河の商業地は2年連続のプラスとなっています。
■住宅地変動率上位ー名古屋圏(単位:%)
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■商業地変動率上位ー名古屋圏(単位:%)
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公示地価では「うめきた」「あべの」エリアが突出して大きな上昇を見せましたが、その傾向は周辺にも広がって、大阪圏の商業地は5年ぶりに0.4%上昇しました。大阪府の商業地は1.1%の上昇で都道府県別で最大の上昇率です。
また、大阪駅周辺は開発が続いていて、今後も上昇の余地があります。国土交通省の報告では、「大阪市の中心部ではオフィス取引にやや回復が見られ、賃貸市場も底打ち感が見られる」としています。
住宅地では、兵庫県の阪神間の上昇が顕著でした。また、京都も観光産業の復活から商業地は0.8%上昇、住宅地も利便性の良いエリアはマンション需要が増えています。
■住宅地変動率上位ー大阪圏(単位:%)
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■商業地変動率上位ー大阪圏(単位:%)
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今の不動産市場を活気づけているのは株式市場や海外の投資マネーですが、今回の基準地価の上昇傾向については慎重論もあり、経済評論家からも「バブルの兆しか経済成長か」見極めは困難だという声もあがっています。
しかし、リーマン・ショック、そして東日本大震災の影響を乗り越えようと、不動産市場に活気が戻ってきているのは事実です。アベノミクスによる景気回復、そして2020年東京オリンピック・パラリンピック開催と期待は高まり、不動産市場は新たな局面を迎えています。
今後も、国の政策や米国、新興国などの情勢などで景気は大きく左右されるでしょうが、日本の経済成長とともに不動産市場の回復に期待したいものです。地価の動向は、さまざまな指標に注意して見ていく必要がありそうです。