「愛は食卓にある。」——だれもが知っているコーポレートメッセージを掲げ、マヨネーズやドレッシングなどのサラダ文化を醸成してきたキユーピー株式会社。1925年の発売以来、日本中に愛されながら2025年に100 周年を迎えるマヨネーズは、まさにLONGLIFE な存在だ。キユーピーはなにをめざしてきたのか。生活者にとって、どのような存在でありたいと願ってきたのか。キユーピー食と健康推進プロジェクト内山さんにお話を伺うなかで、「愛」だけでなく日本の食卓を豊かにする先駆者としての誠実な姿が浮かび上がってきた。
どこのスーパーにもずらりと並べられ、日本中の家庭で使われているマヨネーズ。日本におけるその歴史は99年前に始まった。
「キユーピー創始者の中島 董一郎(なかしま とういちろう)が農商務省(現在の農林水産省)の職員として渡米した際、ポテトサラダに使われていたマヨネーズと出会ったのがすべての始まりです。中島はそのおいしさだけでなく、欧米人の身体が大きいことにも注目します。栄養価の高いマヨネーズを普及させることで、日本人の体格と健康の向上を目指したんです」。
写真左は、1925年に発売した初代キユーピー マヨネーズの容器。当時は瓶詰め1種類だった。写真右は、1940年ごろの新聞広告。まだ一般的なメニューではないサラダを紹介しながら、日本人の健康をサポートしようとする姿勢がうかがえる。 写真提供:キユーピー
帰国した中島はキユーピーを1919年に創業。1925年、日本初のマヨネーズが誕生した。当時の日本には生野菜を食べる文化がなかったため、まずは缶詰の鮭などに合わせる提案からスタート。サラダが食卓に上るようになった1960年ごろからは、マヨネーズの製造量も激増したという。
草創期は日本人の体格向上を目指していたキユーピーだが、その存在は時代と共にどんどん変化していった。
「1980年にはカロリー半分の『キユーピーハーフ』を発売したり、2016年にはアマニ油入りのマヨネーズを開発したり。技術を駆使しながら、時代ごとの健康意識や価値観に合わせた商品を届けてきました」。
また、マヨネーズ発売 90周年時には、マヨネーズで素材を炒める「マヨソテー」という新しい食べ方を提案。食品ロスを減らすため、容器を改良して賞味期限の延長にも取り組んだ。
社会、そして人びとの変化をいち早くキャッチしてきたからこそ、「キユーピー マヨネーズ」は100年にわたって愛されてきたのだろう。
1958年、キユーピーは新たにドレッシングを発売。マヨネーズとドレッシングという2つの調味料がそろったところに、食卓の洋風化といった追い風もあり、「サラダ文化」は日本に根付いていった。そして2023年からは「サラダファースト」のキャッチフレーズのもと、サラダが持つ魅力の発信にあらためて取り組んでいる。
「私たちは、サラダ文化の普及に貢献してきた自負があります。一方で、その魅力やポテンシャルを伝えるという部分においてはまだまだ余地があるな、と感じていて」。
サラダは飲料やごはん類などに続いて食卓に登場し、メニュー全体のトップ5に入るというデータもある。すでに食卓ではおなじみの存在ではあるが、日常の中で野菜を食べる機会をさらに増やしていきたいと内山さんは意気込む。
忙しかったり面倒だったりと野菜を切るのも大変なら、キユーピーグループが提供している惣菜やパッケージサラダを使う手もある。「おいしさ・やさしさ・ユニークさ」をもって食卓を豊かにすることをめざす、その姿勢はキユーピーが提供するサラダ関連商品のバラエティの多さにも表れている。
「今後は、新しいサラダメニューの提案にも積極的に取り組んでいきたいと思っています。健康のために義務感を持って野菜を食べている方にも、なかなか野菜が摂れないという方にも、まずはサラダの楽しみ方を知ってほしいんです。サラダって、ほんとうに自由な食べものですから」。
惣菜メーカーや飲食店などフードサービス市場の他社にも素材や商品を提供し、「内食(自宅での料理)、中食(惣菜や弁当)、外食」のあらゆるシーンで日本人の生活を支えてきたキユーピーグループには「よい商品はよい原料からしか生まれない」という創業からの想いがある。
「戦後、闇市でしか原材料が手に入らなかったときは、中身が保証されていないものを使うくらいならばと製造販売を中止したほどです」。
この中島の思想は、会社全体に浸透しきっているという。いまも新商品を作るときは取引先の工場などを訪問し、製造現場を自分たちの目で確認する。いまや多くの企業であたりまえとなっているこの取り組みを、キユーピーははるか昔から行ってきた。
「実際に商品を口にされるお客様のために、共にいいものを作り上げましょうという意識なんです。それはお取引しているメーカーさんだけでなく、たとえば商品を運んでくださる運送会社さんに対しても同じですね」。
キユーピーで働く人たちは「人として正しいことをすればキユーピーらしさにつながる」と信じているのだと、内山さんは胸を張る。消費者調査でも高いブランド力を見せているが、ひとつひとつのプロセスにごまかしがないことを生活者が感じ取っているのだろう。
「中島の言葉に、『世の中は存外公平なものである』という大切にしている教えがあるんです。世の中はずるい人間が得をするように見えることもあるけれど、長い目で見れば、誠実で真面目に努力する人が認められるものだって」。
短期的な利益に飛びつくのではなく、長く残るものづくりをする。その正直な会社のあり方を、心底誇らしげに話す姿が印象的だ。
ちなみにこの姿勢は、だれもが知る『キユーピー3分クッキング』にも表れているという。決して商品PRの場にはせず、家庭によくあるものを使い、ただただ献立のアイデアを提案する。
その誠実さが食卓に届いているからこそ、『3分クッキング』は60年超という長寿番組になっているのかもしれない。
このように誠実さをあたりまえに大切するキユーピーは、自分たちの営みがサステナブルであることも大切にしている。
たとえば、卵。日本で生産されている鶏卵250万トンのうちおよそ1割、25万トンもの卵をキユーピーで使用している。そのうちの2.8万トンが殻だが、それらは廃棄せず活用しているそう。
「たとえば、卵の殻はチョークや食品原料としてカルシウム強化剤に使われます。卵の殻の内側にある卵殻膜も、化粧品やサプリメントなど食品以外の用途に利用されています。最近では、工業製品の材料として新たに活用の幅を広げているところです。かつて二束三文で売っていたものの価値を上げて、サステナブルと商売を両立させようというわけです」。
こうした卵に関する取り組みは、じつは1950年代、土壌改良材として農家に販売したところから始まっている。SDGsという言葉が出てくる、およそ半世紀も前のことだというから驚きだ。
「子どもの食育やオープンキッチン(工場見学)にも、力を入れています。先ほどの品質管理の話もそうですが、じつは、最先端の会社なんですよ(笑)」。
1961年からスタートした工場見学をはじめ、食育の啓発にいち早く取り組んでいる。全国の小学校への出前授業「マヨネーズ教室」も好評。 写真提供:キユーピー
キユーピーには、たとえ前例がなくても地球や人間にとっていいことをするという大前提がある。生活者の目に見えない部分での「あたりまえ」が、たくさんの「安心かつおいしい」を食卓に生み出しつづけているのだろう。
キユーピーにとってのLONGLIFEとはなにか。最後の問いに、きっぱりとした言葉が内山さんから返ってきた。
「『愛は食卓にある。』ですね」。
食卓は、ただの栄養摂取の場ではない。心を養い、豊かな時間を過ごし、絆を太くする場。そこには必ず、愛があるのだと言う。ファミリーでもひとりでも友人とでも、食卓が愛の場であり、愛が食卓で育まれることは変わらない。キユーピーはこの場を、サラダを通して支えてきた。
「サラダを食べることは、自分自身を愛すること。人に食べてもらうのは、愛を伝える行為。私はそんなふうに思っているんです。身体にいいものを食べたり楽しんだりすることは、自分や相手を大切にすることにつながるんだって」。
「おいしい」も健康も、幸せに直結する。——そのことへの確信が、マヨネーズをはじめとしたさまざまな商品を、そしてキユーピーという会社を、LONGLIFEな存在にしているのだ。
「『食べる』って1日3回、365日、ずっとつづいていくんです。食卓にそっと寄り添いながら、みなさんの幸せを支えるメーカーでありつづけたいですね」。
キユーピー:https://www.kewpie.co.jp/
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