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ヘーベルハウスLONGLIFE IS BEAUTIFUL kurkkufields(クルック フィールズ)のロゴ

ゆとりのある暮らし

訪れたあとに、
暮らしが変わり、未来が変わる。
クルックフィールズがめざす
「思いが巡る場所」

ヘーベルハウスLONGLIFE IS BEAUTIFUL kurkkufields(クルックフィールズ)で収穫されたトマトとオクラを持つ様子

写真提供:クルックフィールズ

インタビュー

千葉県木更津市に、30ヘクタールの広大な農場、「クルックフィールズ」がある。ただの農場ではなく、環境負荷を少なくし、「続いていく未来」を作るためのさまざまな取り組みが行われており、農業や食、アート、イベント、宿泊など、ここにしかない体験を求めて全国からたくさんの人が訪れる場となっている。その哲学と未来に向けるまなざしを、ファームツアーや校外学習などの体験の提供、魅力的な地元食材やオリジナル雑貨などを扱うマーケット運営など幅広く手がける佐藤剛さんに伺った。

循環を、この場から

農場や養鶏場、水牛の牛舎が点在し、新鮮かつおいしい食材を得られる。場内で出たすべての生ゴミを肥料へ変え、動物から出た糞は堆肥に使う。排水は敷地内で浄水する。斜面に並ぶメガソーラーパネルは施設全体の80%の電力をまかない、売電もする。大人は子どものように、子どもは子どもらしく、身体いっぱいにはしゃぐ。

——そんな場が、千葉県木更津市にある。農業や食、イベント、宿泊などを楽しみに、ハイシーズンには1日1000人以上が訪れる「クルックフィールズ」だ。

ヘーベルハウスLONGLIFE IS BEAUTIFUL kurkkufields(クルックフィールズ)の全景

写真提供:クルックフィールズ

クルックフィールズの設立者は、音楽プロデューサーの小林武史氏。きっかけは9.11(ニューヨーク同時多発テロ)だった。小林氏は当時ニューヨークを拠点にしていたこともあり、なぜこんな事件が起こったのか、このまま未来を迎えていいのだろうかと立ち止まった。そうして環境や紛争、貧困などあらゆる問題を探るなかで、核となる問題——「資本主義の拡大」に行き当たったのだと、佐藤さんは語る。

「成長をベースにした『もっとたくさん、もっと大きく』という資本主義の拡大があらゆる問題の根源で、ここで方向転換しないともう地球は続かないと気づいたんですね」。

ヘーベルハウスLONGLIFE IS BEAUTIFUL kurkkufields(クルックフィールズ)の宿泊施設Cocoon(コクーン)でインタビューに応える佐藤剛

そして2010年、東京湾をのぞむ木更津の土地に農業法人を立ち上げたのが、クルックフィールズのはじまりだ。クルックフィールズのキーワードは、「循環」。冒頭に挙げたさまざまな取り組みによって、ショッピングモールに象徴されるような「ひたすら消費しつづける資本主義」とはちがうあり方を提案する場だ。

「これだけの規模で、ここまで循環に取り組んでいる場はなかなかありません」と佐藤さんは説明する。しかし、地球環境が刻一刻と悪くなっている中、クルックフィールズの取り組みだけではとてもその変化に追いつけない。

ヘーベルハウスLONGLIFE IS BEAUTIFUL kurkkufields(クルックフィールズ)のソーラーパネル

脱炭素社会を目指し、敷地内には8700枚のソーラーパネルが設置されている。

「ですから、クルックフィールズは基本的な情報をすべてオープンにしています。何か聞かれれば、どんな運用をしているか、どんな試行錯誤をしているか、伝えられる情報は惜しみなく提供します」。

「地球の未来を守る」というおおきなゴールをめざしているからこそ、「自分たちだけ」の情報にしない。このスタンスは、クルックフィールズのあり方を象徴しているようだ。

「僕らが2つめ、3つめのクルックフィールズを展開していくのは現実的ではありません。それより、ここに来て共感してくれた人たちが自分たちの生活や事業に循環を取り入れてくれるほうが、僕たちが描く未来に近づけると信じています」。

ここは「目」が変わる場所

クルックフィールズに来た人たちは、「目がよくなる」と佐藤さんは語る。

「ここにいらっしゃる方々はみなさん、植物の豊かさにおどろきます。ファームツアーでご案内すると、水辺に生える大量のクレソンを見て『うらやましい』と口を揃えます。『緑がいっぱいで癒やされる』とも。でも、じゃあ自宅の周りや都市部には何も自生していないかというと、意外と草木は生えているし食べられる野草もたくさんあるんですよ。ただ、それに気づく目を持っていないだけで」。

ヘーベルハウスLONGLIFE IS BEAUTIFUL kurkkufields(クルックフィールズ)の園内を流れる小川に群生したクレソン

浄水機能を持つ小川の水辺には、クレソンが群生している。佐藤さんに摘んでもらい口に入れると、強い香りが鼻に抜けた。

佐藤さんに言わせれば「多摩川の土手は食の宝庫」だし、街中を車で走っていても「あ、あの植物があんなところに」という気づきにあふれているという。同じように、クルックフィールズで学び、知ることで、「すでにあるもの」の存在と価値に気づく目が育っていく。

目に見えるものだけでなく、地球に対しても同じだ。クルックフィールズに身を置く中で、日々の生活が地球にどのような影響を持つのか「想像する目」も養われるのだという。

「大切なのは、ここでの気づきを日常に取り入れてもらうことです。クルックフィールズだからできる、では意味がないんですね。ただ『楽しかった』『学びになった』で帰ってしまうか、その人の考えや価値観を変えられるかでは、まったく違う。ここは特別な場だという誇りはあるけれど、一方で、特別にはなりたくないんです」。

佐藤さんの言うとおり、ちいさな循環は日々に取り入れることができる。たとえば自宅でもコンポストを用意すれば、家庭で出た生ゴミを土に還すことができる。プランターがあれば、家の中やベランダで有機野菜を育てることもできる。使わなくなった服は捨てず人にあげるのも、立派な循環だ。また、暮らしに必要なものを「どう選ぶか」も変わってくるだろう。

ヘーベルハウスLONGLIFE IS BEAUTIFUL kurkkufields(クルックフィールズ)にあるコンポスト

コンポストを使って生ゴミを土に還し、その土で野菜を育てることで循環を実現。写真提供:クルックフィールズ

「たとえばオーガニックな野菜は一般的に価格が高いですが、ただ生産性だけを求めて見境なしに農薬を使うと土地の力は弱くなり、最悪の場合終わってしまいます。そういう目を持ってさまざまな商品について調べ、選ぶことで社会は変わる。そんな実感を持ってもらいたいですね」。

開いて、伝える

ヘーベルハウスLONGLIFE IS BEAUTIFUL kurkkufields(クルックフィールズ)にある草間彌生のアート作品と地中図書館

訪れた人の感性を開く草間彌生さんのアート作品(常設で3点)と、やわらかい日の光が差し込む地中図書館の天窓。写真左提供:クルックフィールズ

クルックフィールズの敷地内には草間彌生をはじめとしたアート作品が並び、音楽イベントもしばしば開催され、図書館まである。どんな意図でこれらの要素を取り入れているのか聞くと、「開くため」だという答えが返ってきた。いったい、何を開くのだろうか。

「人間の感覚です。そもそも代表の小林は、『ソウゾウ』——イマジネーション(想像)とクリエイティブ(創造)の2つの言葉を大切にしています。ただ、ソウゾウするためには、まず固くなっている人間らしい感覚や感性を『開いて』もらう必要がある。だから、そこをゆるめる仕掛けとも言える要素を散りばめているわけです。ただ、何に触れたときに『開く』かはそれぞれですから、音楽、アート、農、食、本、遊びといったさまざまな要素を混在させているんです」。

また、「コクーン」と呼ばれる宿泊施設を利用し、長くこの場にとどまることで、よりたっぷり「開いて」もらえるという。「ミナペルホネン」デザイナーの皆川明さんをプロジェクトリーダーに迎えて描いたこの宿のコンセプトは、「能動的な宿」だ。

「一般的なホテルにありがちなサービスをする側、される側という関係性ではなく、非日常なラグジュアリーさを味わうのでもなく、暮らしの延長のような形で過ごしていただくことを大事にしています」。

宿泊者は、厳選された調理器具や調味料、食器が用意されたキッチンラウンジを使い、収穫してきた野菜やハーブ、敷地内で採れた新鮮な素材を自分で調理できる。ほかの宿泊客とおしゃべりしたり分け合ったりしながら作る料理は、よそでは食べられない最高のご馳走だ。子どもたちも、自宅では食べない野菜ももりもり食べるのだとか。

ヘーベルハウスLONGLIFE IS BEAUTIFUL kurkkufields(クルックフィールズ)の宿泊施設Cocoon(コクーン)の共用キッチン

3つのキッチンと薪釜を構えるラウンジ。ヴィンテージの食器や厳選された道具が自由に使える。写真提供:クルックフィールズ

「このキッチンラウンジでは、『少しだけ便利でないほう』の選択肢を提案しています。お米は自分たちの好きな具合に精米してもらいますし、スパイスは自分たちですりつぶしてもらいます。もちろんコーヒーも、豆から挽いてもらう。全部『ちょっとした手間』ですが、この一手間が暮らしにゆとりを生みます。ここで一度やってみることで、家でもできるかも、と思ってもらいたいんです」。

ヘーベルハウスLONGLIFE IS BEAUTIFUL kurkkufields(クルックフィールズ)宿泊施設Cocoon(コクーン)の共用キッチンにある精米機と調味料

精米機の使い方はスタッフが教えてくれる。すりつぶしたてのスパイスからは、香りが立ち上がり、新鮮な素材により深みを出してくれる。

これまで人間は便利さや生産効率によって豊かさを追求してきたが、心の豊かさはそこに比例していただろうか。コクーンでの体験は、暮らしやあり方を変えてくれる。「開いた」状態をつくり、言葉や体験をすっと染みこませるさりげない仕掛けによって、きっとたくさんの人の日常が変化してきたことだろう。

命のてざわり

クルックフィールズに来た人は、さまざまな「命に触れる」体験ができる。そのひとつが、「動物と食」だ。

ヘーベルハウスLONGLIFE IS BEAUTIFUL kurkkufields(クルックフィールズ)牛舎で飼われている雄牛

「ここでは希少な水牛のモッツァレッラチーズを生産しています。イタリアでも食べられないような新鮮なモッツァレッラで、本当においしい。でも、それをただ食べるのと、数百キロの巨体を揺らす水牛と対峙した後で食べるのではまったく違う体験になりますよね。『あの水牛のお乳から作られたのか』って、絶対に考えるでしょう」。

佐藤さんはあえて、水牛の仔について「食用肉となる」と説明することもあるという。

「ときには子どもたちに、『スーパーに並んでる肉は何頭分だろうね』って話したりもします。生きていた動物が並んでるんだって実感、なかなか持てないと思うから」。

ヘーベルハウスLONGLIFE IS BEAUTIFUL kurkkufields(クルックフィールズ)で飼われていた子ヤギ

生後1週間経たないヤギの子どもたち。ヤギのミルクも、クルックフィールズで作る絶品チーズの原料となる。

命のてざわりを感じると、自然と生態系やアニマルウェルフェアにも意識が向くようになるだろう。「食べ過ぎないようにしよう」「大事に育てられたお肉を食べよう」といった、尊重と慎みの感覚につながっていく。

「命をいただく」とは、よく耳にする言葉だ。けれどこうして、命をいただくことを真剣に捉え、生産の現場にまで落とし込む場は多くはないだろう。

もちろん命のてざわりを感じるのは動物だけではなく、植物も同じだ。

「たとえばタマネギは、植え付けから収穫まで約半年かかります。つまり、気候変動で不作になれば長期間の収入に影響が出てしまいます。不作によって価格が高くなると不満を持ってしまいますが、『いま、生産者は大変なんだな』と少し視点を変えてみてほしいですね」。

ヘーベルハウスLONGLIFE IS BEAUTIFUL kurkkufields(クルックフィールズ)の農場で作業するスタッフ

この話を聞けば、スーパーでの感じ方も選択も変わる。命に生かされている自分はなにができるか、なにをすべきか。ここは、考えるヒントに満ちている。

次世代と「一緒に」学ぶ

こうした取り組みを真摯に重ねるクルックフィールズには、SDGsな事業展開を考える企業研修をはじめ、校外学習として年間6000人もの子どもたちが訪れる。

「未来って、僕たち大人がいなくなったその先の世界のことですよね。僕はここで、次世代につなぐ役目を果たしていきたいんです。そのために、遊びに来てくれたお子さんの親御さんや引率の先生方にも、いろんなことを伝えなきゃって」。

子どもは、クルックフィールズが掲げる「続いていく未来」そのものだ。自分たちがいなくなった後の地球で、生きていく存在。

「この前、3年前に来てくれた子と会ったら、いま、ここで学んだ環境教育につながる探究学習に取り組んでいるんだと教えてくれました」。

ヘーベルハウスLONGLIFE IS BEAUTIFUL kurkkufields(クルックフィールズ)でSDGsを学ぶ子どもたち

写真提供:クルックフィールズ

佐藤さんが獣害についてのプログラムを提供したある女子高校生は、レストランでメイン料理を選べるときにジビエ(狩猟で捕獲された野生の鳥獣)にしたのだそう。佐藤さんが伝えたことが、子どもたちの選択を確実に変えている。

一方で佐藤さんは、最近は「次世代のために」とあまり考えないようになってきたという。

「いまの子どもたちって、小さいころから地球に対して危機意識を持って生きているんです。だから、次世代の『ために』大人ががんばるんじゃなくて、次世代と『一緒に』取り組む環境を作っていきたいと思っています」。

だれかを思うこと、共鳴すること

環境問題を解決するのはむずかしい。人間が活動するうえでの、永遠の課題だろう。それでも目を逸らさずに未来を見つめつづけるクルックフィールズにとって、LONGLIFEとはいったい何なのだろうか。

ヘーベルハウスLONGLIFE IS BEAUTIFUL kurkkufields(クルックフィールズ)の宿泊施設Cocoon(コクーン)でインタビューに応える佐藤剛

「誰かのことを想うこと、だと思います」。

自分以外の他者すべてを「想いたい」のだと、佐藤さんは言う。

「子どもがいる人ならば、『この子が幸せに暮らせる世の中にしたい』と考えるのは自然な感情ですよね。自分の一生だけでなく、否が応でもその先まで想像するから。でも、それだけじゃないんです。僕はここに来てくださる人も、スタッフも、プライベートで出会う人も、もちろん家族も、とにかくみんなを大切に想いたい」。

自分ひとりが人生で関われる人は、限られている。けれど自分がだれかを心から大事に想い、「こうしたほうが心地いいよね」「こうありたいよね」といった思いをシェアすれば、その人がまた別の場所でだれかとシェアしてくれるはずだ。こうして共鳴は循環し、少しずつ、しかし確実に社会を変えていく。

いずれは、クルックフィールズを出会いと共創の場にしたいと佐藤さんは願っている。きっと、年齢も社会的立場も関係なく同じ思いを持つ仲間が集まり、自分たちのあり方について真剣に、しかし深刻にならずに語れる場となるはずだ。

「それが、こうして場に集うことの意味でもあると思うんです。宿でも農場でもない、カテゴリに縛られない『クルックフィールズ』という場で、未来を作っていきたいですね」。

ヘーベルハウスLONGLIFE IS BEAUTIFUL kurkkufields(クルックフィールズ)に集合したスタッフたち

写真提供:クルックフィールズ

クルックフィールズ:https://kurkkufields.jp/

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