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暮らしのコツ

楽園写真家が語る「楽園のあかり3」vol.3写真家:三好和義

リゾートホテルでは心身ともにリラックスできて、ぐっすりと眠ることができた。そんな経験をした方は多いのでは。それは、リゾートホテルの「夜のあかり」と関係があるのかもしれません。世界のリゾートを写真に収めてきた「楽園写真家」の三好和義さんに、「楽園」の印象深い夜のあかりを語っていただくこのコラム。海外のリゾートやホテルの「楽園のあかり」をご紹介いただきます。美しい写真と三好さんの言葉から、快適な暮らしの照明のヒントを見つけてください。今回はインド洋上の26の環礁と約1190の島嶼国モルディブの「ソネバフシ」の灯りのお話です。

素朴な灯りで照らされるNO NEWS NO SHOESの日々 ソネバフシ(クンフナドゥ島/モルディブ)

インドの南西洋上に、赤道をまたいで分布する平均海抜1.5メートルのサンゴ礁の国、モルディブ共和国。バア環礁の1400×400メートルの細長い島に1995年にオープンした「ソネバフシ」は、世界のネイチャーリゾートのお手本となった施設です。水上飛行機で洋上の乗降機場に降りて、そこから島まではボートで向かいます。ボートに乗ると手渡されるのが「NO NEWS NO SHOES」と書かれた靴袋。この袋に履いてきた靴を入れて預けると、チェックアウトまで島内ではずっと素足で過ごすことになります。65室の客室ヴィラの周囲の通路やレストランには白砂が敷き詰められていて、客室への上り口には砂を落とすための、ハリネズミを模したフットブラシが備えられていました。客室ヴィラには移動用の自転車も備えられています。もともとはサンゴ礁の島なので農作物は育たないのですが、客土を施して無農薬の畑が造られ、島内で穫れた新鮮な野菜や果実はレストランやバーで饗されます。とても上質な食事は、このリゾートの大きな魅力の一つになりました。人工素材やハイテクノロジー機器が一切視界に入らない、徹底したデザインが日常と隔絶した自然体験へと導いてくれます。

天然素材に包まれる

「ソネバフシ」で過ごす時間は、近代社会以降の科学技術や工業と一体化した暮らしをひととき忘れ、地球本来の自然へと還る時間と言えるでしょう。この島に入る人は老若男女、社会的地位や肩書に関係なく、すべての人が靴を脱ぎ、預けた靴は帰路の水上飛行場に向かうまで返されることはありません。ヴィラの中も外も、レストランでも素足で過ごすことになります。足の感触だけではなく、目に入るものもすべて自然か天然素材の造作だけ。石油製品のプラスチックやイミテーション素材は一切使われていません。木、布、土、石、鉄……素朴な材料による素朴な仕上げは、都市生活の残像を消して、心身が自然と一体になるための設えなのです。だからと言ってキャンプのような生活を強いられるのではなく、オーディオや冷蔵庫などの設備はすべて「自然」の中や間に巧みに隠され、滞在客のリゾートライフを背後で支えています。もちろん、灯火だけではなく、電気照明も使われています。

自然と一体化する照明

こうしたネイチャーリゾートには、どんな照明器具がふさわしいのでしょうか。自然との心休まる穏やかな関係を損なわない照明とは。「ソネバフシ」では、光源を天然素材の造作や仕上げの中に隠す間接照明のほかに、灯火のような温かみのある控えめなタスクライトも備えられています。そのランプシェードに使われているのは、革を薄くなめした素材でした。おそらく、北アフリカでよく見かけるゴートスキンの造作ではないかと思います。革のシェードを透ける光は目に柔らかく、オレンジ色の光がライトの周囲に広がっていました。「ソネバフシ」はエコリゾートとしても世界的に有名で、実際、地球温暖化ガスによる海面水位の上昇は、海抜が低いモルディブにとっては深刻な問題なのです。モルディブのリゾートでは、消費電力の小さな半導体の光LEDの採用が進んでいることと思います。その場合も、最新技術やエコ装備を誇らしげに見せるのではなく、ゴートスキンのような古来から使われてきたシェード素材に包み込んで、あたかも灯火のように、自然の光景の一部になっているはずです。

「楽園のあかり」が、みなさんの暮らしの灯りを考え直すきっかけになりますように。

Kazuyoshi Miyoshi
Kazuyoshi Miyoshi

三好和義

みよし・かずよし ● 1958年徳島生まれ。85年初めての写真集「RAKUEN」で木村伊兵衛賞を受賞。以降「楽園」をテーマにタヒチ、モルディブ、ハワイをはじめ世界各地で撮影。その後も南国だけでなくサハラ、ヒマラヤ、チベットなどにも「楽園」を求めて撮影。その多くは写真集として発表。近年は伊勢神宮、屋久島、仏像など日本での撮影も多い。近著は『死ぬまでに絶対行きたい楽園リゾート』(PHP)。日本の世界遺産を撮った作品は国際交流基金により世界中を巡回中。

ご紹介頂いた宿 : ソネバフシ

http://www.soneva.com/soneva-fushi

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